――物語も中盤戦を迎えましたが、監督は野崎くんをどのように捉えていますか?
  山﨑 私は、彼をサラリーマンだと思っているんですよ(笑)。サラリーマンでも常に仕事のことばかり考えている完全な仕事人。あまりに集中しすぎていて、感情表現がおろそかになっている人なんだろうなと。けっして感情がないわけではないんです。あくまでも優先順位として漫画が上。スタッフから「こういうときの野崎くんって何を考えているんですか?」と聞かれることがありますが、だいたい「漫画のネタを考えていますよ」と答えていますし、そういうつもりで彼を描いています。
――確かに、淡々としつつも感情自体は多彩ですよね。特に4、5話ではそれが顕著だったように感じられました。
  山﨑 4話は、3話までに新キャラクターがたくさん登場したので、一度、野崎くん、千代ちゃん、御子柴の関係性とそれぞれの内面を掘り下げようという狙いがありました。野崎くんと御子柴のちょっとおバカな部分と、そんなふたりに嫌とも言わずに付き合う千代ちゃんの健気さが出せたかなと思います。
――4話は、作中のゲーム画面の作り込みもすさまじかったですね。
 

山﨑 実は、作中の時間で現在の御子柴がプレイしているのが『ガールズプリンセス3』で、過去にプレイしているのが無印の『ガールズプリンセス』なんです。細かいところですが、現在と過去とで絵柄とプレイ画面を変えています(笑)。

――ゲーム画面が進化しているわけですね!
山﨑 そうです(笑)。

――こだわりといえば、野崎くんのマンガは実際にマンガ原稿を制作されているそうですね。
 

山﨑 野崎くんの漫画家としての説得力を持たせたかったので最初にコンペを開き、菊地七菜さんと白石識さんというプロの漫画家さんにお願いすることになりました。ホワイトやラフ線も残すようにして、生原稿っぽさを出しています。身近なものを再現して世界観の基本軸をしっかりさせることで、現実の地続きにこんな変な人がいるということを見せたかったんです。

――そして、5話では野崎くんのこれまでに見られなかった姿も。
 

山﨑 5話は、野崎くんが初めて見せる心からの笑顔がポイントですね。憧れである剣さんへの笑顔、お弁当をおいしいと言って食べてくれた御子柴への笑顔。同じように千代ちゃんに対しても喜んだ表情を見せて。いままでにない笑顔を見せてくれたので、私自身も新鮮に感じられました。

――人と人との関係性がキャラクターの内面を深め、それが面白さにも繋がっていますよね。
  山崎 スクウェア・エニックスさんとの打合せの中で出てきたのは、この作品は「恋愛・学校・仕事」という3パターンの関係図があるということでした。千代ちゃんの野崎くんへの恋心が“恋愛”、鹿島や堀たちとの関係が“学校”、剣さんや前野との付き合いが“仕事”。この3つの要素を全話数にバランスよくちりばめるということは最初から決めていて。各話数とも1つのパターンを中心に掘り下げるようにしています。
――“恋愛”のカギともなる千代ですが、彼女のことはどのように捉えていますか?
 

山﨑 ネガティブにならずに、とにかく野崎くんを受け入れるところが魅力ですね。けっして「私、ダメかも……」とならずに、「とりあえずやってみよう!」と思えるポジティブな女の子。野崎くんのためとあらば、2人乗りの自転車にもとりあえず乗ってみるし、合コンの練習にもとりあえず参加してみる。そんな前向きな一途さは前面に出すようにしています。

一途でめげないところが
千代ちゃんと役者の共通点

――千代役の小澤亜李さんは本作がTVアニメで初のヒロイン役だそうですが、キャスティングのポイントは?
  山﨑 実は、小澤さんには2回オーディションをさせていただいたんです。普段の声がかわいいので、作った声ではなく地声でもう一度芝居をしてほしいという狙いがあって。実際、地声での芝居がとてもよかったので、それで小澤さんに決まりました。プレスコがはじまってからも、どんどん上手になっていって、小澤さん自身が千代ちゃんっぽいんだなと、何度も思わされましたね。
――どのようなところに千代っぽさを感じるのでしょうか?
  山﨑 彼女の反応ですね。芝居に対して細かいオーダーをすることが多かったのですが、絶対に落ち込まず、必ず「1回やってみます!」と言ってくれるんです。そのポジティブさが千代ちゃんに繋がるなと感じました。
――そんな共通点があったんですね。
  山﨑 声がかわいらしいので、千代ちゃんの台詞が嫌味にならないところもいいですね。千代ちゃんって、「バカなの?」といった辛辣なツッコミが意外に多いんですよ。でも、小澤さんが言うとすごくかわいらしくなる。その点でもぴったりだなと思います。
――もう1人のメインキャラクターである御子柴についてはいかがでしょうか?
  山﨑 彼はとにかくカッコつけているという、いい意味でわかりやすくテンプレートなキャラクターです。カッコよさの演出というのは意外とつけやすいものなので、キラキラしているときの御子柴はすごく芝居もつけやすいんですよ。ただ、彼には女の子と話せないという一面やオタクという一面があるので、そのギャップをどう描くかというのは、結構な悩みどころですね。
――ほかにも魅力的なキャラクターが登場しますが、描いていて特別面白いキャラクターはいますか?
  山崎 6話の若松は面白かったですね。原作で最初に読んだときは、「イケメンがまた登場してきた」くらいにしか思わなかったんですが、結月と関わるようになって俄然面白いキャラクターだなと思うようになりました。ローレライのことは好きだけど、結月のことは迷惑に思っている。その違いが楽しいんですよね。6話は私が演出を担当しましたが、思った以上に若松をかわいく描けたなと思います。
――音響監督は松尾衡さんが担当されていますが、その理由というのは?
  山﨑 もともと『ローゼンメイデン』('04年)からの付き合いで、演出の師匠の一人としてずっとついてきたという経緯があります。松尾さんのもとでは、プレスコを何度も経験していて。それで、(動画工房制作の)『夏雪ランデブー』のときに各話演出で入ったこともあり、動画工房さんからこの作品の依頼を受けたんです。収録はプレスコでということになったので、最初は冗談で「音響監督は松尾さんでどうですか」と伝えたところ、OKをいただいて。音響監督を正式に松尾さんにお願いすることになりました。お互いに共通認識、共通言語があるので、とてもやりやすいですね。
――どのようなところでやりやすさを感じますか?
  山﨑 たとえば、千代ちゃんが仕方なく野崎くんのお願いを聞くようなシーンがありますよね。小澤さんにはもっと事務的な態度でお願いしたいと松尾さんに話したら、「制作進行のときの山崎の態度だろ。文句もあるし、納得もしていないけど、とりあえずやるっていう」とおっしゃるんですよ(笑)。まさにそれですと。

――なるほど(笑)。
あくまでも一例ですが、声優さんへの芝居に関してお互いに求めているものを具体的に伝え合えるというのは、強みだなと感じます。

――では最後に、クライマックスに向けた後半の見どころを教えてください。
  山﨑 これまで登場したキャラクターがメインになる回がそれぞれ1回以上あり、よりキャラクターが掘り下げられていきます。千代ちゃんの恋愛という部分に関しても、着地点はしっかり用意していますので、ぜひ楽しみにしていてください。
©椿いづみ/スクウェアエニックス・「月刊少女野崎くん」製作委員会